道具と作り手の掛け算
何かを作り出す人、その全員にとって、道具は欠かすことのできない存在。どんなものであったとしても。ただ、手にした瞬間から神器になるわけではもちろんありません。道具がもっている特徴を使い手がしっかりと理解し、その上で自身の手に、仕事に馴染ませていく。それには少々、時間がかかります。馴染んだ後は、使い手の技能を拡張するものとなります。それが、滋賀の無垢な自然の恵みを芸術作品へと昇華させるのです。朝露のように美しく零れ落ちるエスプレッソも、真珠のように輝く炊き上がりのお米も作品です。
福田屋のコーヒーの焙煎をしているCoffee Works Plusのバリスタでありオーナーの山根さんは、日本でも珍しいピストンレバー式のエスプレッソマシンを操り、一杯一杯、丁寧にエスプレッソを抽出します。雑味がなく透き通る味わいと口当たりの良い上質なコーヒーは、特殊な道具と山根さんの腕のコンビネーション、水によって織り成されており、それがこの地における水質の高さ、環境の良さの何にも勝る証明になっています。Coffee Works Plusが展開しているのはコーヒーだけではありません。牛乳やワイン、それらも求めに来られる方の様子を見ると、Coffee Works Plusが地域にとって重要な存在であることも分かります。
一方、針江のんきぃふぁーむは今の時期、新米の収穫、脱穀、精米に大忙し。さらには、次の生産に向けた種の選定まで。しっかりと選定をし、種のサイズを揃えてあげることで、味にムラがなくなります。自然に頼った有機農法だからこそ、人による事前の地道な作業が大切なのです。のんきぃふぁーむの石津さんは、こう語ります。「米農家は他から種を調達することもあるようなのですが、僕たちはそれをしません。種から自分たちで用意することで種も土壌に順応していき、この地域を反映したお米が出来上がります」。
福田屋の主である西村は、のんきぃふぁーむで精米してもらったお米を福田屋に持ち帰るとすぐにかまどに薪をくべ、炊飯の準備を始めました。当然、自動ではないかまどの火で行う炊飯は慎重に行わなければなりません。火、風のこまめな調整、香りのチェックなど、多くの手間がかかります。西村は実に丁寧にその加減を見ますが、「求めている完璧なお米を炊くには、まだまだ時間がかかる」と言います。
新米は瑞々しく、適度な弾力と甘味を感じます。いつもはおかずの“お供”になりがちなお米が主役になるのも、この時期ならではなのかもしれません。艶やかなお米と合わせるのは、この地域で採れた自然薯、近江牛ときのこといちじく和え、茄子田楽、山根さんのところで手に入れた赤ワイン。様々な人の技術や感性、不可欠な神器とも呼べる道具、地域の環境と資源。福田屋で提供される食事、飲み物はそれらの掛け算、クロスオーバーによって生み出されているのです。
コーヒー:Coffee Works Plus
https://coffeeworksplus.wixsite.com/0221
新米:のんきぃふぁーむ
https://nonkifarm.com/