田植えの季節です
生産者との距離が近いこと。ありがたいことに琵琶湖周辺では、湖魚をはじめ、お米、野菜、山菜、お茶に至るまで、ほぼ全ての食材を近隣から仕入れることができます。
食材を見ると作り手の顔や作られている場所が浮かぶ──。これは都内のホテルで料理人をしていた頃にはなかったことです。
だれがどうやって作っているのか、その背景を知ることで、食材への思い入れが変わります。大切な人たちが作った食材を、どうお客様に届けるのか、いつもワクワクしながら料理をしています。私がこうやって福田屋で主人をしながら、料理を作り続けられているのは、近くに生産者がいるからこそ成り立っています。あらためてこの場を借りてお礼を申し上げます。
さて、最近のジャーナルでは料理の紹介が続いたので、今日は福田屋がいつもお世話になっている生産者さんをご紹介したいと思います。まず最初は、お米を栽培されている「針江のんきぃふぁーむ」さんです。「地の味」を大切に栽培をしている彼らのお米は、味わい深く、一度食べたら忘れらないほど美味しいのです。
5月〜6月、琵琶湖周辺でも一斉に田植えがはじまります。植える時期が少しでも遅れてしまうと、その後の稲の発育に影響が出るため、この時期米農家さんは大忙し。
午前9:50分。待ち合わせ場所の針江のんきぃふぁーむさんの事務所に向かう途中で、スタッフのゆるぎさんに遭遇。田んぼひと区画の田植え作業を終えて、事務所に帰るところだといいます。 「一体何時から作業してたんですか?」という質問が頭をよぎりましたが、それは聞かず待ち合わせ場所に車を走らせます。
ゆるぎさんと再び事務所で集合して、まずは苗代田(なわしろだ)へ立ち寄ります。今から作業をする畑に植え付けする黒米の苗を、ひたすらトラックに積んでいきます。細身のゆるぎさんが両手にひとつづつ、ひょいっと持ち上げるので、ついつい軽いものと思ってしまいますが、そんなことはありません。実際は水気を含んだ土のおかげで、トレーはかなりずっしり。
5キロのトレーを両手で何度も上げ下げしていると、30分もしたら握力がなくなって腕の感覚もなくなってきます……普段の運動不足を感じます(汗)。ですが、本日2週目のゆるぎさんは余裕の様子です。
苗を積んだら畑に移動。一気に8畳植え付けが可能な横広の田植え機で、さきほどの苗を植えていきます。こうして毎日、畑を変えては同じ作業を何度も繰り返しているのです。農家さんが日々やられている仕事を目の当たりにすると、お米一粒無駄にできないとあらためて思います。
黒米の田んぼから車で約3分。針江のんきぃふぁーむのオーナー石津さんが代掻き(しろかき)をしていました。
あたりにはトンビやサギが群がっています。耕したあとに出てくるミミズやカエルを狙っているようです。有機農法を推進する針江のんきぃふぁーむには、多様な生物が共存しているんだろうと鳥たちを見ながら思いました。
石津さんが運営する針江のんきぃふぁーむは、もともと家業で古くから米作りをスタート。石津さんが2005年に就農してから、本格的に有機栽培への切り替えを推進。現在は21町(約21,000㎡)ある田んぼうち、約80%を無農薬で育てられています。
石津さんはこうおっしゃいます。「僕たちは作業に機械が必要なので、エネルギーも使っている。だから自分たちのやり方が正しいとは思っていません。ただ燃料に福田屋さんや他の飲食店からもらった天ぷら油を使っていたり、できることをやっているつもりです。」
針江のんきぃふぁーむさんのお米が、なぜこんなにも美味しいのかも聞いてみました。「湧水と土壌と品種の相性ですね。植えたら勝手に育ってくれるのでぼくたちは何もしてないですよ。」
除草剤を使わずに、夏に恐ろしいスピード生える雑草の草抜きがどれだけ大変か、針江のんきぃふぁーむさんの田んぼを遠くから見守る私は知っています。
石津さんという人物の人柄を知った今、彼のつくるお米が彼の思想とリンクしているように感じます。農をたのしむ余裕、土壌と品種の相性を突き詰める探究心、地球と人への愛──。
そんな針江のんきぃふぁーむさんのお米は、福田屋の夕食と朝食の両方でお召し上がりいただけます。朝は「いのちの壱」。コシヒカリよりも大粒で甘味があり、ごはんのお供がなくてもごはんが進むお米です。夕食には「滋賀旭」を使用。素朴な味わいで、おかずを引き立ててくれます。
「よくこのお米はどこで買えるの?」とお客様に聞かれますが、オンラインストアで購入できます。
針江のんきぃふぁーむオンラインストア:http://shop.nonkifarm.com/
ぜひご家庭でもお楽しみください。次号は新茶について。またすぐに会いましょう。
福田屋主人 西村一樹
Photo by Masaki Ozaki